研究紹介

腱縫合の研究

Side-locking loop suture法による手指屈筋腱縫合

講師 山上 信生

腱縫合法の研究

私達整形外科が扱う手指の屈筋腱損傷は、腱を縫合する手術を行った後、癒着や拘縮が生じやすく、以前より難題とされてきました。現在では、専門病院において良好な治療成績が報告されていますが、一般病院では必ずしも良好であるとは言えず、未だ手の機能に障害を残す可能性が高い外傷です。癒着や拘縮を防ぐためには、早期に手指の運動を行う必要があり、通常の腱縫合術後後には下図のような装具を用いた繁雑かつ厳密なリハビリテーションプログラムを行わねばなりません(図1)。つまり専門病院で専門のハンドセラピストがいなければ厳密なリハビリテーションは困難であり、そのような環境の整っていない一般病院では、十分な治療が行えないことになります。

図1. 一般的な腱縫合術後に使用される装具
※日本手外科学会「手外科シリーズ」から画像を引用。

当教室では、より強固な縫合法を確立すれば一般病院においても簡便に安全なリハビリテーションができるのではないかと考え、内尾祐司教授、森隆治医師の指導のもと研究を開始しました。

強固な糸を用いた新しい腱の縫合法を研究・開発し、実験により従来から用いられている縫合法と比べてはるかに良好な強度があり、治療後に患者さんが指をすぐに動かしても問題ないところまで到達しました(文献1-5)。すでに、この研究の成果を手指の屈筋腱損傷に臨床応用しており、良好な結果をおさめています(文献6)。

ポリエチレン混合糸を用いた新しい腱縫合法

従来から用いられている糸よりもはるかに強い「ポリエチレン混合糸」の強度を、十分に発揮するために開発した新しい腱縫合法「Side—locking loop suture (SLLS) 法」です(図2)。この腱縫合法により、ギプス固定や装具を使用せず、手術してすぐに患者さんが自分の力で指を動かすことが可能となっています(図3)。その後SLLS法を改変し、手指屈筋腱縫合だけでなく、アキレス腱縫合にも臨床応用しております(次の項参照)。

参考文献

  1. Yotsumoto T, Mori R, Uchio Y : Optimum locations of the locking loop and knot in tendon sutures based on the locking Kessler method. Journal of orthopaedic Science 10: 515-520, 2005
  2. Yamagami N, Mori R, Yotsumoto T, Hatanaka H: Biomechanical defferences resulting from the combination of suture materials and repair techniques. Journal of Orthopaedic Science 11(6): 614-619, 2006
  3. Komatsu F, Mori R, Uchio Y, Hatanaka H: Optimum location of knot for tendon surgery in side-locking loop technique. Clinical Biomechanics 22(1): 112-119, 2007
  4. Kuwata S, Mori R, Yotsumoto T, Uchio Y: Flexor tendon repair using the two-strand side-locking loop technique to tolerate aggressive active mobilization immediately after surgery. Clinical Biomechanics22: 1083-1087, 2007
  5. Nozaki K, Mori R, Ryoke K, Uchio Y: Comparison of elastic versus rigid suture material for peripheral sutures in tendon repair. Clinical Biomechanics 27(5): 506-510, 2012
  6. Ryoke K, Uchio Y, Yamagami N, Kuwata S, Nozaki K, Yamamoto S, Tsujimoto Y: Usefulness of braided polyblend polyethylene suture material for flexor tendon repair in zone II by the side-locking loop technique. Hand Surgery 19(2): 287-291, 2014

 

 

Side-locking loop suture法によるアキレス腱縫合

講師 今出 真司

アキレス腱断裂ってどんなケガ?

一般に膝下後ろのぷっくりしたところは「ふくらはぎ」と呼ばれます。「はぎ」とは膝から足首までのいわゆる「脛(すね)」のことであり、「ふっくらしたすね」=「ふくらはぎ」が語源のようです。この「ふくらはぎ」、医学的には腓腹筋の筋腹で足関節を底屈(つま先立ちの肢位)する筋肉です。さらにその奥(深層)にはヒラメ筋があり、同様に機能します。これら筋肉の力を踵へ伝達し底屈動作へ変えるために必要は部位がアキレス腱であり、人体最大最強の腱です。とても強い腱なので一回の衝撃で断裂することは滅多にないと考えられています。しかしながら、繰り返しストレスに曝される中で小さな損傷が蓄積されれば、最終的に断裂してしまいます。要因はアキレス腱そのものの質や周囲組織の衰えもさることながら、アキレス腱にかかる負荷量(体重増加や運動強度)など、様々な要素が考えられます。好発年齢は30代後半から40歳代ですが、老若男女問わず、だれにでも起こり得るケガです。ちなみにその発生率は、年間1万人当たり3人程度です1)

治療法

治療法を2つに分けると、保存治療と手術治療があります。アキレス腱断裂ではいずれも選択肢となります。

保存治療ではギプスや装具を使いアキレス腱断裂部を近づけた位置で一定期間(1~2ヵ月)保持し、断端間が自然治癒力でつながることを期待します。外科処置がないので身体的負担は少ないですが、保存治療の最大の問題は再断裂する可能性が若干高いことであり発生率は約3-10%です2)。もちろん成績は施設によって異なり非常に良い成績を提示する施設もありますが、一定数起こり得る合併症と言えます。

手術治療では糸を使って断裂したアキレス腱を縫合し人工的につなぎます。術直後から強度を得ることができるので、再断裂する危険性の対し保存治療に比べ安心してリハビリテーションを行うことができます。しかしながら手術なのである程度の侵襲は避けられず、伴って術後感染(化膿)神経障害(多くは腓腹神経)といった合併症が問題となり、その発生率は10-20%です2)。また手術方法は多数あり、施設によって異なります。そのため、施設ごとに術後リハビリテーションの流れが異なり、固定期間や装具の有無といった差異が存在します。

このように一長一短ある治療法ですが、最終的な治療成績はほぼ同等と言われています2).ですから治療法の選択に絶対的基準はなく、患者さんの置かれている状況に応じ治療法が選択され、その全ての選択が正解と言えます。その一方でできるだけ早くリハビリテーションを開始することが、歩行能力など早期社会復帰に必要な機能回復に重要です3).私たちの施設では患者さんにできるだけ早く仕事や学校生活へ戻っていただくことを重視し、手術直後から強度を担保でき固定期間や装具を極力用いない手術方法を採用しています。

当施設における手術方法

私たちが考案した方法(Side-locking loop suture法)はいたってシンプルです。強い糸を使って腱を滑らないよう縫い、引き寄せます。使う糸は医療用縫合糸の中でも最強クラスで50㎏以上引っ張っても切れません。縫い方は、例えばカウボーイが投げ輪で牛を捕まえるように、ループで腱をしっかり捉えます(図1)。アキレス腱縫合では

図1:Side-locking loop suture法の詳細。指は腱線維を表します。

A)牽引方向(矢印)に対し縦糸が横糸をくぐるように配置します。
B)すると輪が形成され腱線維(指)がロックされ、引けば引くほど緩みません。
(参考文献4より引用し編集)

両断端にこの方法で糸をかけ、ちょうど良い強さ(良い方の脚と同程度の張り具合)まで引き寄せたところで締結します。上述の手の腱縫合法を改変したもので、これをModified side locking loop suture法5)と呼んでいます(図2)。

図2:Modified side-locking loop suture法。(参考文献5より引用し編集)

術後は1週間程度外固定(いわゆる添え木)し術部を安静にすることで、除痛を図ります(ただし患者さんの、超早期に社会復帰したい、といった要望があればこの期間を大幅に短縮することも可能です)。その後松葉杖を用いた歩行訓練を開始します。この際、踵を若干高くするような簡易の装具を使うこともありますが、基本的には装具なしでリハビリテーションを進めます。多くの患者さんは術後1ヵ月くらいで杖なし歩行ができるようになり日常生活の支障は少なくなります。しかしながらふくらはぎの筋力低下は避けられず、スポーツ復帰には少なくとも4ヵ月は要し、患者さんのスポーツレベル(趣味の範囲からプロ級まで)によっても変わってきます。ここをいかに早くするか,それが今後の課題であり、日夜研究を続けています。

参考文献

  1. Ganestam A, Kallemore T, Troelsen A, et al. Increasing incidence of acute Achilles tendon rupture and a noticeable decline in surgical treatment from 1994 to 2013. A nationwide registry study of 33,160 patients. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 24: 3730-3737, 2016.
  2. Zhou K, Song L, Zhang P, et al. Surgical versus non-surgical methods for acute Achilles tendon rupture: A meta-analysis of randomized controlled trials. J Foot Ankle Surg 57: 1191-1199, 2018.
  3. Yang X, Meng H, Quan Q, et al. Management of acute Achilles tendon ruptures: A review. Bone Joint Res 7: 561-569, 2018.
  4. 今出真司,坂田神乃,真庭愛美.アキレス腱断裂縫合術.整形外科看護25.:52-55,2020.
  5. Imade S, Mori R, Uchio Y: Modification of side-locking loop suture technique using an antislip knot for repair of Achilles tendon rupture. J Foot Ankle Surg 52:553-555, 2013.