診療情報

スポーツ

助教 門脇 俊

現代の医学は専門性、独自性が高まっており、整形外科の中でも膝、股、肩、脊椎といった関節や部位ごとに専門に別れ、当院でもそれぞれの専門医が診療を行っています。スポーツに起因する障害や外傷(スポーツ傷害)についても、たとえば膝靭帯損傷であれば膝専門外来、野球肘であれば上肢専門外来で対応します。

しかしスポーツ傷害の治療の目標は損傷部位の治癒はもちろんですが、スポーツへの復帰、そして高いパフォーマンスの獲得であるはすです。したがって損傷した部分のみならず、全身の身体機能、栄養状態、精神状態といった総合的なケアが求められることになり、専門分野や職種に囚われていては十分に有効な医療が提供できないといえます。このことから当教室では多職種による「チーム」を形成してスポーツ選手の診療にあたる体制を構築しています。

膝前十字靭帯損傷の手術治療を例にとってみますと、まず整形外科専門医が診察し診断をつけて手術を計画します。手術までの間に筋力や感覚が低下しないよう理学療法士によって筋力訓練や動作訓練を実施し機能維持を図ります。
手術後早期はメディカルリハビリテーションと呼ばれる機能回復訓練を行い、日常生活に支障のない水準まで回復すれば、その後はスポーツ復帰を目的としたアスレティックリハビテーションを継続していきます。これは筋力や柔軟性はもちろんのこと、正しい動作姿勢や体の向き・使い方、再び受傷しないための動きを習得するためのものであり、当然専門的な知識や技術を持った理学療法士が必要です。

当院では日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー2名をはじめスポーツ診療を専門とする理学療法士が担当しスポーツ復帰をサポートします。手術の必要のないスポーツ傷害でも同様のアスレティックリハビリテーションを行い、ケガの原因となり得る身体機能不全の改善を目指します。
また疲労骨折や無月経の問題のあるアスリートに対しては管理栄養士による栄養指導、全国大会レベルに出場するアスリートやプロ選手ではドーピング対策も必要となるためスポーツファーマシストによる服薬指導を受けられる体制をとっています。

診療を担当したプロスポーツ選手と

院外に目を向けると島根県は過疎地のためスポーツ診療に関わる医療従事者の人数も十分とは言えません。
そこで当教室の整形外科医と理学療法士を中心に県内他院の理学療法士を加えたスポーツ診療チーム(島根スポーツ医学・リハビリテーション研究会:SMART)を結成しました。これによって当院で手術を受けたアスリートが遠方の地元で適切なリハビリテーションを受けることができるようになり、さらにスポーツ少年団や学校部活動へ出向いてのスポーツ傷害に関する講演やトレーニング方法の実技指導、少年野球チームでの超音波検査器を用いた野球肘検診、世界大会やインンターハイをはじめとした各種競技会への救護派遣など幅広い分野の活動が実施できるようになりました。

島根県は2030年に国民スポーツ大会・障がい者スポーツ大会を控えており、競技力向上には県内全体でのスポーツ診療レベルの向上が必須であるため、当教室がその中心なって活動を進めていく所存です。

超音波機器を用いた野球肘検診の様子

山陰中央新報2020年より転載
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女性アスリート外来を開設しました

島根大学整形外科 門脇俊

女性アスリートの健康管理上の問題点として、「利用可能エネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」があり、これらは「女性アスリートの三主徴」と呼ばれています。
運動によるエネルギー消費量に対して、食事などによるエネルギー摂取量が不足した状態が続くと、卵巣を刺激する脳からのホルモン分泌が低下し無月経となり、正常に女性ホルモンが分泌されず女性器の発育を妨げるばかりか骨代謝にも影響を及ぼします。その結果、思春期の若い女性であっても骨粗鬆症となることも珍しくなく、運動負荷による疲労骨折をきたす危険性が高まります。なによりこのような栄養不足で不健康な状態ではアスリートとしてパフォーマンスが十分に発揮できるはずがありません。

女性アスリートの三主徴はそれぞれの発症が相互に関連しているため各診療科が協力して多角的にケアする必要があります。
そこで大学病院の強みを活かし、疲労骨折に対して整形外科、無月経に対し婦人科、骨粗鬆症に対して内分泌代謝内科、低栄養に対し栄養部、そしてパフォーマンス発揮のためのアスレティックリハビリテーションを理学療法部が担当するという包括的な診療体制を構築し女性アスリートのための専門外来を開設することとなりました。疲労骨折や無月経で悩む女性アスリート(特に思春期の学生)の患者さんがおられましたら是非ご紹介頂ければと存じます。

院内広報誌「しろうさぎ」より

島根日日新聞新報2020年より転載
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