診療情報

足・足関節

講師 今出 真司

足・足関節における疾患は多種多様で、かつ患者さんによって求められる治療効果も十人十色です。私たちは必要な診察や検査をできるだけ効率的に実施し、現段階で可能な限り正確な診断をご提供する事を第一義として診療に当たっています。その上で、患者さんの思い(訴え)やその背景を勘案し、複数の選択肢と共にお勧めの治療法をご提案するよう心掛けています。足周囲の疾患でお困りの方は受診をご検討ください。

さて、ここでは主要な足・足関節疾患と、当院における治療法についてご紹介いたします。

1. アキレス腱断裂

ふくらはぎ(腓腹)の筋肉と踵を結ぶ部分をアキレス腱と言い、人体最大最強の腱です。一回の衝撃で断裂することは滅多にないですが,繰り返しストレスに曝され小さな損傷が蓄積されることで断裂に至ると考えられています。好発年齢は40代前後で、年間1万人当たり3人程度が受傷します。

治療法は大きく分けて2つ、ギプス等を用いた外固定による保存治療か、手術治療(腱縫合)となります。当院では早期社会復帰の観点から、積極的に後者を勧めています。縫合手技は当大学オリジナルであり、術後ギプスは不要、どこよりも早く術後リハビリテーションを行え、また社会復帰も可能です。目安としては、術後に自力で歩行できるまで約1ヵ月、スポーツ復帰まで約4ヵ月です。

(整形外科看護Vol.25, 4月号より抜粋)

2. 足関節捻挫

整形外科疾患で救急外来を受診する患者の14%が足関節捻挫です。このうち77%は内返し捻挫であり、足関節外側靭帯(外くるぶし付近の靭帯)損傷となります。ギプスや装具で固定することにより多くは治りますが、約20%の患者さんに持続する足関節不安定性が残り、外科治療の対象となります。無論、年齢や活動状況(スポーツの有無や仕事の内容)によって適応度合いは様々ですから、しっかり診断した上でどうするか、一緒に相談しましょう。

さて、治療の基本方針は切れた靭帯を縫合し機能回復を図ることです。従来は直視下手術(いわゆる普通の手術)が主流でしたが、当院では関節鏡技術を導入し、できるだけ小侵襲で同等の効果を得られる手術を積極的に行っています。また40歳以上の患者さんでは高率に靭帯そのものが傷んでおり、しっかり縫合しても十分に機能しないことがあります。このような患者さんへは人工靭帯による補強術の追加を提案する事もあります。

3. 変形性足関節症

変形性関節症と聞けば膝関節や手指の変形を思い浮かべる方が多いと思います。しかし足も関節です。絶対数は少ないですが、ご多分に洩れず変形性関節症になることはあり得ます。ただし、その9割が外傷性と言われており、若い時分に捻挫したとか、骨折をしたとか、何らかの既往をもつ患者さんがほとんどです。

治療について、変形程度によって関節を残せるかどうか判断します。軟骨がある程度残っており変形が比較的軽い患者さんへは、関節温存術を勧めています。一方で重度の変形を有する患者さんへは関節固定術を勧めています。股関節や膝関節では古くから人工関節が開発され、紆余曲折する中で優れた耐久性を有する信頼性の高い機械が流通しています。もちろん足関節にも人工関節はありますが、それらに比較すると歴史が浅く信頼性も低いのが現状です。一方変形性足関節症に対し古くから用いられてきた手術方法は関節固定術です。悪い関節を固定するので痛みは劇的に軽減し、満足度の高い手術の一つでます。当然ながら足関節の動きは落ちますが、足の動きは足関節とその周囲の関節が連動しているので、実際に失う動きは全体の約6割です。得られる除痛効果と失う関節機能を天秤にかけると前者が勝ることが判っています。当院では確実性を重視し関節固定術を選択しています。術式について、靭帯縫合同様こちらも関節鏡技術を導入し、できるだけ小侵襲の手術を提供するよう心掛けています。

関節温存術(左:術前、右術後)

関節鏡視下関節固定術(左:術前、右術後)

(関節外科Vol.40, 1月号より抜粋)

4. 外反母趾

外反母趾になる原因について、遺伝性があること、女性に多いこと、ハイヒールを履くとなりやすい、といったことが判っていますが、どれがどの程度影響するのか、誰がいつ発症するのか、定かではありません。言える事は一度発症すると徐々に進行する事が多く、自然治癒は期待薄です。ただし症状の有無と変形の強弱は別問題で、治療すべきかどうかは症状があるかどうか、そしてその症状でどれだけ困っているかに依ります。

治療法は矯正骨切り術の一択です。確かに様々な運動療法や装具療法が存在します。しかし残念ながら変形に対する矯正力は証明されていません。もちろん除痛効果は期待できるので試してみる価値は十分ありますが、根治を狙うなら手術治療を選択することになります。骨切り術は多くの術式が存在し一長一短です。基本戦略は外反変形(母趾が外側へ傾く事)および回内変形(母趾が長軸上で内側へ回転する事)の矯正です。当院では軽い症例では第一中足骨遠位骨切り術を、重症例では第一中足骨近位骨切り術を選択しています。術式に関しては深く長い話になるので、対象となる患者さんへ外来で個別にご説明いたします。

軽度外反母趾に対する第一中足骨遠位矯正骨切り術

重度外反母趾に対する第一中足骨近位矯正骨切り術