診療情報

膝関節

助教 多久和 紘志

当教室では、膝関節のスポーツ外傷・障害や一般外傷、加齢変化による膝関節の障害を全般的に扱っています。特に、前十字靱帯損傷などの靱帯損傷に対する靱帯再建術や、軟骨損傷に対する軟骨修復術、変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切り術および人工膝関節置換術に積極的に取り組んでいます。

そのほか臨床研究においては、膝蓋骨不安定症・反復性膝蓋骨脱臼患者の客観的評価を可能にする新しい検査方法として、膝蓋骨内側および外側支持機構の剛性が計測可能な膝蓋骨検査器の開発(島根大学医学部医の倫理委員会承認 558号)、脳内微小血流変化をとらえ脳賦活部位を特定することで患者が自覚する不安感を可視化するfunctional MRIの研究(島根大学医学部医の倫理委員会承認 660号)などに取り組んでいます。

前十字靱帯損傷

前十字靭帯損傷は、膝関節のスポーツ外傷の中でも高頻度に生じる外傷です。ジャンプの踏み切りや着地、急な方向転換、急停止により受傷することが多く、バスケットボール、バレーボール、サッカー、スキーなどで発生します。前十字靭帯が損傷すると、膝関節の不安定感を生じて日常生活・スポーツに支障をきたすようになり、やがて半月板や関節軟骨の損傷をきたす危険性があります。正常な膝機能を回復させるためには靱帯再建術が必要です(図1, 2, 3)。当科では移植材料として、患者さん自身の膝屈筋腱や骨付き膝蓋腱を用いており、いずれも良好な成績が得られています。入院期間は2-3週間程度です。

軟骨損傷

関節軟骨はいったん損傷すると自己修復を期待できない組織です。一般的な手術方法として、鏡視下骨穿孔術(軟骨損傷部を穿孔することで骨髄由来細胞を誘導し線維軟骨による被覆を期待する手法)、骨軟骨柱移植術(本来の硝子軟骨での被覆を目的に膝関節内の非荷重部から採取した骨軟骨柱を移植する手法)などが用いられます。近年では再生医学を利用した軟骨細胞移植が臨床応用されてきました。

当講座では、組織工学的手法を用いたアテロコラーゲンゲル包埋自家培養軟骨移植術を世界に先駆けて開発し1996年より臨床応用してきました。2013年に保険適用となり、全国の指定施設において手術が可能となりました。保険適用以降、当講座では年間4-5例の手術を行なっています(図4, 5)。入院期間は4-6週間です。

変形性膝関節症

変形性膝関節症は、加齢により軟骨が摩耗し徐々に変形を伴ってくる疾患です。女性に多く年齢とともに増加します。初期では歩きはじめなど動作開始時のみの痛みですが、徐々に階段昇降や平地歩行でも痛みが出現します。
運動療法や薬物療法などの保存治療で症状が改善しない場合は、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正)(図6)や人工膝関節置換術(図7)などを選択します。いずれも3週間程度の入院が必要です。

当科では人工関節置換術では、手術用ナビゲーションシステムを採用しています。従来の手術方法と比較してより正確なインプラント設置が可能となります。